新型コロナを経験した新しい世界は、もう昔からの常識だけでは対応できません。さらにこの先は、デジタル化やAI(人工知能)との共存が進み「わかっていること」の多くはAI(人工知能)が担い、「わからないこと?新しいこと」を人間が司るようになっていくでしょう。
変化の中でどれだけ柔軟でいられるか?この柔らかさこそが、この先の人間にとって必須の「人間性」となるのです。これまでの古い文化も、最新テクノロジーも自由に織り交ぜて、工夫とアイデアで生きていくことのできる「柔らかい人間」を育てる。これが本学のテーマです。
柔らかい人間になるために、世界で注目されているのが「アート&デザイン」の学びです。
アートは、単に絵を描き、造形することではなく、とらわれている概念から脱することを学びます。価値の置き換えや常識のズレを楽しみ、今までになかった角度で考える力を生み出してくれます。アートを学ぶことは、見たことのないモノを前にして、思考を止めない柔軟性を育みます。世界のトップビジネスマンや起業家たちがアートを愛好していることを見ても、アートが新しい時代の必須科目であることは明らかです。
きっと近い将来には、もっと当たり前に、多くの人がアートやデザインを学び、社会全体が想像力や創造力を活用し、新しい価値を生み出す、そんな柔らかな人間たちがリードする社会が生まれるはずです。しかし、まだまだ日本では、アート=描き方(技法)、デザイン=ルール(作法)としか教えてくれない古い方針の学校が多く、新しい目線でアート&デザインの活用や応用を実践している学校は限られています。
その点、東北芸工大は、新しいアート&デザインを学べる貴重な場所です。その大きな理由は、本学が山形という地方都市にあることです。単なる大自然に囲まれた、のどかで美しい東北という側面だけでなく、多くの社会課題に直面した「課題先進県」でもあるからです。山形は、この先、必ず日本全体が直面することとなる重要な社会課題に、10年も早く向き合っています。言わば山形は「未来の日本の姿」なのです。
長きに渡り解決することのできなかった社会課題に、芸工大の学生と教員は、アート&デザインの力で立ち向かっています。机上や教科書で学ぶのではなく、生きた課題に向き合いたいなら、芸工大こそが、新しいアート&デザインの最前線です。
本学が地域から依頼される案件は、年間100件を超えています。芸工大の演習の大部分はリアルな課題であり、学びと実践の場が大学の内外に広がり続けています。「クリエイティブをどう活用すべきなのか」という課題を、実社会との関わりの中から学んでいくので、社会との対話力に長けた柔軟な学生が自然に育つのです。
もう東京や大都市を基準に物事を考える時代は終わりました。山形は、単独ですでに世界の一部であり、東京に対しての「地方」ではありません。ここで学び、挑んだことは世界で使えるマスター?アイデアです。未来を面白く変えるクリエイターは、ここ山形から巣立つのです。
職業や仕事、人間同士の関わり方、家族の在り方、子育ての仕方など、多くの仕組みがガラッと変わろうとしています。大学教育の在り方も同様で、我々が教科書どおりのクリエイティブを教えていても通用しません。皆さんと同様に、この大学も変化を恐れずに進化し続け、今や芸術大学という枠組みからもはみ出ようとしています。
今、アート&デザイン系人材は、社会のあらゆる分野から求められています。東北芸工大の就職率や進路決定率が他大学よりも高い理由は、新しい社会からの熱烈なニーズがあるからなのです。
東北芸工大は、他の芸術大学のようにアート界やデザイン界という限定された業界だけに人材を輩出することをゴールとはしていません。大きな意味で、世の中にある全ての役割や職業に向けて「柔らかな人」を送り出さねばならないと考えているからです。そんな進化系クリエイティブ大学でアート&デザインを学んだ皆さんは、そのしなやかさを武器に、社会のさまざまな分野を素敵に改革していくことでしょう。
どんな大学に進むにせよ、不安はつきものです。ただ、新しいアート&デザインを学んでみようと思うのであれば、不安ではなく、小さな好奇心をひとかけらだけ持って来てください。最初は誰でも、「好奇心」や「憧れ」がきっかけです。社会の仕組みに興味がある、人が好き、歴史が好き、描くことが好き、作ることが好き、考えることが好き、遊ぶことが好き、集めることが好き、そんな小さな好奇心さえあれば十分です。
これからの社会には、何を学んだら何に成れるという簡単なレールはありません。あなたが学んでいる最中にも、社会の姿はめまぐるしく変わり続けます。みなさんの小さな好奇心は、新しい何かに触れるたびに色を変え、憧れの形も変容し続けるでしょう。その変化の最中に、みなさんがどの瞬間を切り取るのか、どのタイミングで波に乗るのか。それをサポートするのが我々教員の役目です。
アート&デザインは、才能や経験がなければ通用しないという考え方も、周囲の大人や、古い社会が持ち続けている幻想です。クリエイティブのプロたちを見ても、最初から才能だけで成功している人には会ったことがありません。アートも、デザインも、ちゃんとゼロから学ぶことができる「学問」です。あなたの好奇心と、その学び方次第で、いくらでも夢に近付ける領域なのです。
東北芸工大という場所は、社会を幸せに導く方法、変化する時代を仕事にする方法、新たな技術で古きものを守る方法など、あなたの好奇心と憧れを新しい社会と接続させるチャンスにあふれています。未来に通用する「柔らかな」人間を目指すなら、今こそ顔をあげて、アート&デザインと出会ってください。
略歴
中山ダイスケ(なかやま?だいすけ)/1968年 (昭和43年)1月7日香川県生まれ。現代美術家、アートディレクター、(株)daicon代表取締役。「コミュニケーション」をテーマに、絵画、写真、ビデオ等を発表、現代美術の新世代の旗手として国際的に注目される。また共同アトリエ「スタジオ食堂」のプロデュースに携わり、アートシーン創造の一時代をつくった。1997年ロックフェラー財団の招待により渡米、2002年まで5年間、NYをベースに活動。1998年第一回岡本太郎記念現代芸術大賞準大賞、台北(台湾)、リヨンビエンナーレなどの国際展に選出されるなど、展覧会、受賞多数。またファッションショーの演出や舞台美術、店舗などのアートディレクション、商品開発、コンセプト提案など、美術以外の活動も幅広い。山形県産果汁100%ジュース「山形代表」シリーズのデザインや広告をはじめ、行政機関や地域音楽団体、スポーツ団体等との連携プロジェクトなど、「地域のデザイン」活動も活発に展開している。