[最優秀賞]
齊藤夢野|一息
坂井直樹ゼミ
鉄
何ものからも干渉を受けない空間が欲しい。私はコロナ禍を経て人と人の距離感に対し、敏感に何か違和感を感じ取るようになった。あらゆる規制が緩和され、以前の生活様式に戻っていく世の中にうまく溶け込めない感覚があったことからこの作品が生まれた。あらゆる距離感に敏感になった人や、時間に追われ精神が日々磨耗していっている現代の人々が一息ついて本来の自分に立ち返る為の空間となって欲しい。
坂井直樹 准教授 評
作者が制作する上で大事にしたのは「距離感」。
その背景にはコロナとともに過ごした大学生活が基になっている。
コロナ禍は、我々の生活を一変させた。人々の間に分断をもたらし、人と気軽に会えなくなった。コロナ禍とともに入学した作者は「失われた世代」と称され、パンデミックが与えた負の影響を目の当たりにした世代だ。しかし、それを好機と捉え、人と人、モノと人、その距離感を丁寧に優しく汲み取った。その価値観で再構築し、素材と対話し、工芸的手法によりこの空間を生み出した。
振り返れば、コロナ前までの我々の日常は忙しく、仕事や生活に直接関係のあることしか考えなくなっていたのではないか。そして、月日、齢を重ねているというのが大半の人の実情だったのではないか。はたして、それで胸を張って生きているといえるのか、人間としてあらまほしき姿なのか。
ようやく日常を取り戻しつつあるこのタイミングに、是非、この作品の中心部に腰をかけ、自らの来し方行く末をも内省する機会を得てみてはいかがだろうか。