第21回<芸工祭直前号> 物質世界を越えてゆく~ロニー?スペクターの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム

芸工祭がやってくるヤァヤァヤァ!

 立て続けにコラムを書いているのは、イベントがやってくるからである。9月21?22日(土?日)は「芸工祭」です。是非みなさまいらしてください。

 ちなみに、昨年は本コラム「かんがえるジュークボックス」ブースを初出店。このような様子で2日間にわたってオリジナルのマスキングテープを販売したのであった。

「芸工祭」昨年のブース
昨年のブース

 非常に日差しが強いなかでの販売で、ポータブル?プレイヤーにセットされたレコード盤が熱でヨレヨレになったことが思い出される。そして、マステを売るのに必死になりすぎて、翌日から疲労による高熱で寝込んだのも、今ではよい思い出である。来てくださったみなさまとお話できてとても嬉しかった。ああ、あれから1年。早いものである。そしてまたこの季節がめぐってきた。YES! 今年も「かんがえるジュークボックス」は出店いたします!今年は本館のどこかの教室にブースを出してお待ちしております。

物質世界と精神世界

 ブースの宣伝ばかりで、本コラムの主題たるシングルレコードに触れるのを忘れるところであった。今回はロニー?スペクターが歌う1971年発表の“Try Some Buy Some”を聴こう。タイトルを直訳すれば「試してみて、買ってみて」だ。つまり、今年もマステを用意しておりますので、どうか買ってください、ということなのです。

ロニー?スペクター “Try Some Buy Some”(1971)
ロニー?スペクター “Try Some Buy Some”(1971)
 

 この曲はもともとジョージ?ハリスンが書いたものである。怪人フィル?スペクターとの縁がきっかけで、当時のフィルの妻ロニー?スペクターが歌うことになったそうな。インドに傾倒したジョージらしく、このシングル盤のB面が「タンドゥリ?チキン(Tandoor Chicken)」というのも面白い。

 モノを買えというので買ってみた、という、非常に俗っぽい歌詞のようでいて、実はその奥には深い深い精神世界のことが歌われている、とはジョージ談である。確かにその後のジョージのアルバム『リヴィング?イン?ザ?マテリアル?ワールド(Living in the Material World)』にも同様の主張が見られる。くわしくは詩をみていこう。

 Way back in time
 はるか昔
 Someone said try some
 試してみろと言われたから
 I tried some
 試してみた
 Now buy some – I bought some…
 今度は買ってくれというので、買ってみた
 Oh Oh Oh
 オー

 After awhile,
 しばらくして
 when I had tried them
 試してみて
 denied them
 使うのをやめてみて
 I opened my eyes and
 目を開けたら
 I saw you…
 あなたをみつけた

 Not a thing did I have
 何一つわたしは所有していなかった
 Not a thing did I see
 何一つわたしは見えていなかった
 ’Till I called on your love
 あなたの愛を求めるまでは
 And your love came to me
 そしてあなたの愛はわたしに届いた
 OH OH OH OH OH OH
 オー

 さて、1つだけ取りあげたい文法のポイントが登場した。“Not a thing did I have”(わたしは何1つ所有していなかった)は、否定文が文頭にやって来た場合に起こる「倒置」の好例である。倒置をしなかった場合は“I did not have a thing”だ。ほんとうに「何一つ」持っていなかったことを強調したくて“Not a thing”を文頭に置いたために、そのあとに来る文は主語と動詞がひっくり返らなければならないというルールが適用される「倒置」がよくわかる教科書のような詩である。
 では、後半を聴いてみよう。

 

 Through my life
 この人生で
 I’ve seen grey sky,
 灰色の空を見てきた
 met big fry,
 デカい図体のガキどもを見てきた
 seen them die to get high…
 奴らがハイになろうとして死ぬのを見てきた
 OH OH OH
 オー

 And when it seemed that I would
 常に孤独なのかと
 always be lonely
 思っていたとき
 I opened my eyes and I saw you
 目を開けたら、あなたをみつけた

 Not a thing did I feel
 何一つ感じていなかった
 Not a thing did I know
 何一つ知らなかった
 ’Till I called on your love
 あなたの愛を求めるまでは
 And your love sure did grow
 そしてあなたの愛は確かに大きくなっていった
 OH OH OH OH OH OH
 オー

 Won’t you try some
 試してみて
 Won’t you buy some
 買ってみて

 Won’t you try some
 試してみて
 Baby won’t you buy some
 ベイビー 買ってみて

 なるほど、モノはあくまでもモノであるが、それを通じて何か心の目が開くような体験があれば、それもきっと価値のあることになる、ということだろうか。きっとそうだ。少なくとも「かんがえるジュークボックス」のマステとステッカーはそのような効果を狙って作っております。机に向かってセッセとかんがえたり書いたりする時間を彩る文房具。みなさまへそんなモノを届けたい!という、ジョージ?ハリスンの深い精神性に共鳴する熱い想いが込められています。

今年の「かんがえるジュークボックス」グッズはマステとステッカー
今年の「かんがえるジュークボックス」グッズはマステとステッカー
 

 というわけで、ただいまセッセとブースの準備中。トップ画像には、看板を作るのに段ボールに紙を切り張りしている涙ぐましさが見えたでしょうか。マステは昨年同様、MTブランドでおなじみのカモ井加工紙さま製作の信頼の一品。世界中どこを探しても、9月21?22日の芸工祭でしか買えない極めて限定度の高いモノです。ステッカーもマステと同じデザインの数量限定品!Won’t you try some, buy some?

暗躍する音楽ユニット

 それからもうひとつ、わたしが参加するピアノ連弾ユニット「夕ヶ谷姉妹」が芸工祭で演奏予定。初演だ。先月の超短期留学で身につけてきたテルミンの演奏技術も披露できれば幸いである。ほんとうは、人が来ると緊張するといけないから宣伝したくないのだが、誰にも聴いてもらえないのもアレだな、というモヤモヤした姉妹の乙女心と秋の空をご理解いただきたい。

ピアノ連弾ユニット「夕ヶ谷姉妹」 公開前夜
ピアノ連弾ユニット「夕ヶ谷姉妹」
 公開前夜

 とにかく、マザー?テレサが言ったように「人生とは、活動である。」行動することで初めて見える景色があるのだ。だから、ぜひ芸工祭に遊びにお越しください。

 それではまた。次の1曲までごきげんよう。
 Love and Mercy

(文?写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま?ひろゆき)
亀山博之(かめやま?ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。