宮城県教員採用試験に現役合格。熱量あふれる指導陣、そして共に教職課程に励んだ仲間に支えられて/中学校教諭?卒業生 千葉悠平

インタビュー

現在、地元?宮城県大崎市の中学校で美術教員として働いている千葉悠平(ちば?ゆうへい)さん。在学中はプロダクトデザイン学科で家具について学びながら、教員を目指して教職課程の学びにも日々、力を入れてきました。その甲斐あって、宮城県では採用枠が少ないと言われる美術教員に現役で合格。そして教員2年目となった今、どのようなことを思いながら生徒たちと向き合っているのか、学生当時の思い出と合わせてお話を伺いました。

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生徒の意思を尊重し、考える機会をつくる

――はじめに千葉さんの現在のお仕事内容を教えてください

千葉:宮城県にある大崎市立古川中学校で美術の教員をしています。2年生の担任もしていて、1年生を受け持っていた昨年は採用1年目だったこともあり自分のクラスのことだけで一杯一杯だったんですが、2年目になった今は学年全体を見ることができている感じはありますね。

美術教員は本校に2人いて、私が2年生の全クラスと1年生の半分にあたる3クラスを担当しています。そして3年生の全クラスと1年生の残り半分のクラスを担当されているもう1人の先生が経験のある方で、よく授業を見せていただいたり、研究授業を行う際にご指導いただいたりしています。1年生の授業についてはその先生と統一しながら進めていますが、2年生の授業に関しては自分一人で考えていて、やっぱり難しいんですが同時にやりがいも感じています。

お話をお聞きした、宮城県 大崎市立古川中学校教諭 千葉悠平さん
お話をお聞きした千葉悠平さん。

――今は具体的にどんな授業に取り組んでいるのでしょうか?

千葉: 1年生は先日まで描いていた風景画が終わり、今はレタリングを勉強しているところです。2年生は想像の世界を絵で表現する「想像画」を描いているところで、各自アイデアマップを作り、そこから自分が描きたいものを考えて実際に描くということをしています。

また、絵といった平面のものだけでなくデザインの授業も結構取り入れていて、昨年は小刀で木のスプーンを作ったり、彫刻刀で鍋敷きを彫ったりしました。本当ならスプーンであれば「何を食べるのか」とか「誰が使うのか」といったシチュエーションまで考えて作れるといいのですが、それを1年生に求めるのはちょっと難しいかなというのがあって。ただ、これからペットボトルのラベルデザインを2年生の授業で予定しているので、そこでは「誰に向けて作るか」というターゲットの部分まで含めて、生徒に考えてみてもらおうと思っています。

宮城県 大崎市立古川中学校教諭 千葉悠平さん 美術の授業の題材として設定した、木を削って作るスプーン
木を削って作るスプーンは、プロダクトデザイン学科でも1年次の演習で取り組む。異なるのは、造形力だけでなく、ユーザー視点に立って、使いやすさまで検証していく点だ。

――日々の授業の中でいつも大切にされていることはありますか?

千葉:まずは生徒の考えを聞いてみる、ということを一番大事にしています。例えば生徒が塗った色を見て「その色は違うんじゃない?」と急に言っても、生徒は納得して描いたりしないだろうし、やる気もなくなってしまうかもしれません。なのでそんな時は、「どうしてこの色にしたの?」とか「どんなことを考えてこの絵を描いたの?」というのを生徒に聞いた上で、「じゃあ、この色合ってるね」とか「こっちの色の方がイメージに合うんじゃない?」という感じでやりとりするよう心がけています。また、あまり美術が得意ではない生徒に対しては、例えばテーマを設定する時なら、「何か描きたいものある?」と積極的に声をかけて会話の中から一緒に見つけたり、教科書を開いて「これ生かせるよ」と教えてあげたりしています。

――美術を通して、生徒たちにどんなことを伝えたいと考えていますか?

千葉:中学校を卒業すると、高校によっては美術を学ぶ機会がなくなる子もいると思うんです。だからこそ、その後も美術への興味を持ち続けられるように、「実は社会の中のこんなところで美術が使われているんだよ」というのを実感できる機会を作ってあげたいと考えています。大学の時に卒業制作で『木育(木とふれあい、木に学び、木と生きる活動)をテーマとした中学美術の授業』をデザインしたんですけど、例えば生徒たちが座っている椅子にも木が使われていますよね。じゃあ、その木はどこから来ているの?というのを知るために、授業で林業の現場を見に行けたりしたら面白いんじゃないかなと。そうすることで美術が直接的に社会とつながっていることも知れますしね。

お話をお聞きした、宮城県 大崎市立古川中学校教諭 千葉悠平さん

あとは、絵を描く時にその対象をよく観察して「どうしてそうなっているんだろう?」と考える力や、他の人の作品を観て「そういう表現があるんだ!」とさまざまな価値観を受け入れられる力を育てていければと思っています。

――教員になられて2年目ですが、「先生になって良かった」という思いはありますか?

千葉:ありますね。もちろんまだ難しいと思うことや上手くいかないこともありますけど、生徒と話している時はとても楽しいですし、年度末になって「来年も先生がいい」と言われた時は、今までで一番嬉しかったですね。

あらゆる経験や学びを重ねたからこそ届いた夢

――プロダクトデザイン学科への進学を選んだ理由は?

千葉:最初は文房具のデザインとか面白そうだなと思ったのがきっかけですね。あとは数学が得意だったので、そういう数字的なところも設計に生かせそうかなと。3年生になってからは、家具デザインを手がけてきた藤田寿人先生のゼミに所属して、椅子を作っていました。成型合板の機械など、とにかく芸工大は設備がすごくしっかりしていたなと今改めて思います。

――「教員になりたい」と考えるようになったのはいつ頃から?

千葉:中学生の頃から「学校の先生っていいな」とは思っていました。本当に良い先生方と中学校生活を送ることができたので、今度は生徒側ではなく、教員側の立場で中学校生活を送れたら楽しいんじゃないかなと。でもその気持ちがすごく強かったかっていうとそこまでではなくて、実際、高校卒業後の進路を決める時に面白そうだなと思ったのは、ものを作ったりデザインしたりすることでした。それでいろいろ調べて、隣県?山形にある芸工大のオープンキャンパスに行ってみたというのがスタートです。そのため、「もの作りしてみたい」という気持ちと、「先生もいいな」という両方の思いを持ってプロダクトデザイン学科へ入りました。

お話をお聞きした、宮城県 大崎市立古川中学校教諭 千葉悠平さん

その後、3年生になって周りの人たちが就職に向けてインターンに行き出した頃に、「自分にはデザインの道と教員の道、どちらが合っているだろう?」と考えて、より自分らしいと思えた教員の道を選ぶことにしました。

――教職課程の学びの中で、特に印象に残っていることは?

千葉:教職課程はさまざまな学科?コースの学生が受けに来るので、その分いろんな人がいて、いろんな価値観に触れながら勉強できたというのがすごく良かったです。大学本館の5階に教職課程の勉強部屋があるんですけど、採用試験を受ける人たちはみんなそこに来て、学校が閉まる21時くらいまでずっと勉強していました。それで何か分からないことがあったらすぐ教職の先生に聞きに行ったり、時々みんなとしゃべって息抜きしたりしながら。プロダクトデザイン学科から教員を目指すという人はあまりいないんですけど、学科の先生方も「頑張れ」って応援してくださっていましたね。

――当時を振り返ってみて、どんなことが教員採用試験の合格につながったと感じますか?

千葉:教職の先生方には、採用試験の直前まで集団討論や面接の練習をしていただきました。初めの頃は「千葉くんは言葉が足りない」と言われることもありましたが、「自分の思いを詳しく話せるようになったね」と言ってもらえた時は嬉しかったですね。しかも最後に練習した集団討論のテーマが、ほぼそのまま試験に出たんですよ。

それから採用試験には実技があって、美術の教員は絵を描けないといけないということで、教職の吉田卓哉先生に何回も絵を見ていただきました。プロダクトデザイン学科にいたのでスケッチみたいなものは普段から描いていましたが、絵具を使って描くといった機会はそれまでほとんどなかったので。あとは教職課程でつながっている友達のところに行って、油絵を描かせてもらったり版画をやらせてもらったり、本当にいろんなことを経験させてもらいました。とても印象的だったのは、教職の渡部泰山先生に「宮城の採用試験受かりました」と報告した時、「やったなー!!」とすごく喜んでもらえたことですね。宮城県でかつ現役というところがやっぱり大きかったのかもしれません。

宮城県 大崎市立古川中学校教諭 千葉悠平さん 生徒の作品を観る様子

私たち学生に対する教職の先生方の思いというのは、日々すごく感じていました。深い話や熱い話をお聞きする度、みんなと「よし、やろう!頑張ろう!」と勉強に励むことができましたし、また、教育の現場にいる卒業生が授業しに来てくださって、実体験を聞けたのもとても良かったです。私も昨年、芸工大に行って話をさせてもらいました。そうやって私たちが得たものを後輩たちに返していけたらいいなと思っています。

――ちなみに、勉強以外の188体育で何か思い出に残っていることはありますか?

千葉:タッチフットボール(アメフトをベースにしたタックルのない球技)のサークルに入っていたことですね。4年連続で全国大会に行けたというのもあって、今でも生徒と話す上で話題の一つになっています。「そもそもタッチフットボールって何?」ってところからなんですけど(笑)。

サークルには、教職課程と同じようにいろんな学科?コースの友達がいたので、そのつながりでいろんなことを体験させてもらいました。映像学科の先輩の卒業制作にほぼ主演のような形で出演したり、それからサークルで活動している姿しか知らない友達の作品を観た時は、「こういう絵を描くんだ」と新鮮に思ったりしました。あと実は、プロダクトデザイン学科の友達と『M-1』に出たこともあるんですよ。一回戦落ちしましたけど…(笑)。大学では、いろんなことをやって、楽しかったですね。

宮城県 大崎市立古川中学校教諭 千葉悠平さん 在学中、プロダクトデザイン学科の友人と「M-1グランプリ」に出場した時の様子

――今後、何か挑戦してみたいことがあれば教えてください

千葉:「美術」というのは教科の中でも特にジャンルが広くて、自分でも実際にやってみないと教えられないことがたくさんあるんです。なので、例えば自分で大きい絵を描いてみるとか、大学のゼミで作っていた椅子作りにまた挑戦して、「この椅子、先生が作ったんだよ」と言って美術室に置いてみるとか。とにかくこれからもいろんなことを経験して、その中から授業にできそうなものを見つけていけたらいいなと思っています。

――最後に、受験生や高校生に向けてメッセージをお願いします

千葉:私は「デザイナーもいいし、教員もいいな」という思いを持って芸工大に入学しました。そんなふうにいろんな可能性を持ちながら、そしてさらに選択肢を増やしていきながら、最終的に「これにしよう」という1個を選べればいいんじゃないかなと思います。私が大学3年生の時に家具デザインの学びを選択できたのも、1~2年生の頃にいろんな授業があって、それを学んでいく中で「家具をつくりたい」という思いに至ることができたからなんですよね。卒業制作で取り組んだ木育の授業にしても、プロダクトデザイン学科の学びと教職の学び、両方がつながったからこそ生まれたものですし。なので、皆さんにもぜひ多くの選択肢を作っていってもらいたいです。

お話をお聞きした、宮城県 大崎市立古川中学校教諭 千葉悠平さん

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複数の選択肢を持てたからこそ、より確かになった「教員になりたい」という夢。それを強力にサポートしてくれた教職課程の先生方や、共に採用試験に向かって励んだ仲間たちの存在は、今も千葉さんにとって大切な心の支えとなっています。

学科間の風通しが良い芸工大ならではの環境を最大限に生かしながら、さまざまな経験を重ねていく中で千葉さんが得た、多様性を受け入れ相手を尊重する力。これからの教員に一番なくてはならない力と言えるかもしれません。
(撮影:三浦晴子 取材:渡辺志織、入試広報課?須貝)

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東北芸術工科大学 広報担当
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