鶴岡アートフォーラム
作座考 BANDED BLUE 2|東北芸術工科大学の7作家展
インタビュー採録
「空間デザインのプロセスについて」 竹内昌義
鶴岡アートフォーラムの広い展示会場に対して、特に工芸の作品は小さなものが多いということがあり、はじめはどのように空間を構成していいのか考え込んでしまいました。ただ、せっかくの広さをできるだけ生かすためには、単純に空間を間仕切りで区切って、それぞれの作家にそれぞれの場所を割り当てるというやり方はしたくありませんでした。大きなスペースの中で、全体が見えるけれども、それぞれの作家のそれぞれの作品がちゃんと浮き出て分かるようにしたいと思いました。
そのために考え出した仕掛けが、地元の杉材を使ったフレーム状のキューブ(箱)です。ひとりひとりの作家に、フレームをひとつずつ担当していただくことで、その場所がそれぞれの持ち味を発揮する空間として位置づけることにしました。長さ1.8m(大型作品では2.7m)の杉角材をフレームにしてキューブ状に組み上げ、それぞれをブースとして作家ごとに割り与えました。結果的には、和室を想わせる空間ができあがり、茶道や華道と工芸品の持つイメージとも重なり合いました。これは、尺・間という単位で設計したことからくるもので、ひとつひとつのブースは建築的な要素も含んだ構成になっているといえます。
展示用品を設計する際に注意したのは、あまり加工してつくり込まないことでした。展示物が工芸品を中心としているため、展示台自体が主張してしまうと、もともと作品の素材が持つ良さを殺してしまいますので、節が残ったままの角材でフレームを組んだり、表面があまり磨かれていないコンパネで台を組み立てたりして、なるべく生の材木に近い、多少荒さの残る自然物に近い状態に仕上げました。
作家個別のブース構成に加えて、どのようにしたら全体にまとまりが出るかを意識しながら、展示空間の演出を考えました。まずは、あえて鑑賞するための順路をつくらないようにしました。普通なら作家ごとにスペースを区切ってブースを作り、その範囲内で構成を完結させるのですが、今回は、隣の作家との境界を意識した構成を考えました。陶芸や漆芸、金工といった領域が違う作品ですが、作家どうしの関係性が見えてくるような、互いに干渉しあえる空間を演出したかったからです。
実際のレイアウトについては、2人の大学院生にアイデアを出してもらいながら、配置計画を練りました。スケール模型をつくり、フレームや展示台の位置関係や導線などについて、何度も繰り返し議論しました。通常、建築設計の空間構成では、模型によるシミュレーションが仕上りのイメージを再現する最良の方法として用いられています。コンピュータグラフィックスの方が万能だと思われがちですが、仮想カメラの画角やパースが自由になりすぎて、かえって人の目で見た結果とはかけ離れてしまうことが多いからです。
ライティングについても、大小さまざまな作品を引き立てるために、個々にスポットを当てたうえで、さらに塊としてまとめて照らすなど、微妙な調整を行いました。広く薄暗い空間の中で、作品が浮き上がって見えるようなドラマチックな演出になったと思います。
また、展示構成の中で、複数の作家の作品がひとつに集まる畳敷きの展示台や、素材の違う花器に生け花を生け込むスペースをつくりました。作家ごとに、あるいは陶器・金属・漆器などの素材ごとに違う個性の茶道具を並べてみたり、地元の華道団体とコラボレーションを試みたりするなど、鶴岡という文化的な土壌にふさわしい展示を演出できたのではないかと思っています。
[建築家/東北芸術工科大学准教授]
上:展示風景|畳をはめ込んだ展示台に6人の出品者による茶道具が並べられた
下:展示風景|佐々木里知の展示ブース(ブース設計:竹内昌義)